最終更新日: 2026年7月14日
この記事は、産休中の収入を支える「出産手当金」について、金額の計算方法・もらえる条件・申請の流れ・振り込まれる時期を、協会けんぽ(全国健康保険協会)と厚生労働省の公式情報にもとづいて整理したものです。制度の要点だけを先に知りたい方は、出産手当金の要点まとめもあわせてご覧ください。
産休に入ると給与が出なくなる会社が多く、「その間の生活費をどうするか」は働く妊婦さんにとって切実な問題です。出産手当金はまさにその期間を支える給付ですが、「いくらもらえるのか」「いつ振り込まれるのか」「自分は対象なのか」が分かりにくい制度でもあります。順番に確認していきましょう。
出産手当金とは?産休中の生活を支える健康保険の給付
結論として、出産手当金は、出産のため会社を休み、その間に給与の支払いを受けなかった場合に、勤務先の健康保険から支給される給付です。対象期間は産前42日+産後56日の最大98日分(多胎妊娠は産前98日)で、1日あたり給与のおよそ3分の2に相当する額を受け取れます。
ポイントは「勤務先の健康保険から出る」という点です。国や自治体の給付ではなく、健康保険の被保険者本人であることが前提になります。この条件については次の章で詳しく説明します。
出産育児一時金(50万円)との違い・両方もらえる
名前が似ているため混同されやすいのが「出産育児一時金」です。2つはまったく別の制度で、それぞれの条件を満たせば両方受け取れます。
| 出産手当金 | 出産育児一時金 | |
|---|---|---|
| 目的 | 産休中の収入の補てん | 分娩費用の補てん |
| 金額 | 日額(給与の約2/3)× 休んだ日数 | 原則50万円 |
| 対象 | 勤務先の健康保険の被保険者本人 | 健康保険・国民健康保険の加入者(扶養含む) |
| 受け取り方 | 申請後に口座振込 | 医療機関への直接支払制度が主流 |
出産育児一時金は扶養に入っている方や国民健康保険の方も対象になる一方、出産手当金は「本人として勤務先の健康保険に加入して働いている人」だけが対象です。一時金の詳細は出産育児一時金の解説ページを参照してください。
育児休業給付金(育休手当)との関係
産後56日を過ぎて育児休業に入ると、今度は雇用保険から「育児休業給付金(育休手当)」が支給されます。時系列で見ると次の流れです。
- 産前産後休業(産休) — 健康保険から出産手当金
- 育児休業(育休) — 雇用保険から育児休業給付金
支給元も計算方法も異なる別の制度で、産休が終わった後の期間は育休手当がカバーします。育休手当の概要は育児休業給付金の解説ページにまとめています。
もらえる人・もらえないケース
結論として、出産手当金の絶対条件は「勤務先の健康保険に本人として加入していること」です。国民健康保険の方(自営業・フリーランスなど)や、家族の扶養に入っている方は対象外です。パート・アルバイト・派遣でも、勤務先の健康保険に本人として加入していれば対象になります。
支給の3条件
次の3つをすべて満たすと支給対象になります。
- 勤務先の健康保険に被保険者本人として加入している(扶養家族としての加入は不可)
- 妊娠4ヵ月(85日)以降の出産である(早産・流産・死産・人工妊娠中絶も含まれます)
- 出産のために仕事を休み、その間に給与の支払いを受けていない
3つ目について、給与が一部支払われている場合でも、その日額が出産手当金の日額より少なければ、差額が支給されます。産休中の給与の扱いは会社によって異なるので、勤務先に確認しておきましょう。
もらえないケース(国保・扶養内・任意継続の注意)
次のような場合は対象外です。
- 国民健康保険に加入している(自営業・フリーランス・個人事業主など)— 国民健康保険には出産手当金の制度自体がありません
- 配偶者や家族の扶養に入っている — 被保険者本人ではないため対象外です
- 退職後に健康保険を任意継続している期間の出産 — 任意継続被保険者は原則として出産手当金の対象外です(在職中から続く支給を除く)
対象外の方でも、出産育児一時金(原則50万円)は国民健康保険や扶養からでも受け取れます。また、国民健康保険料・国民年金保険料には産前産後期間の免除・軽減の仕組みがあります。使える制度の全体像は出産のお金ガイドで確認できます。
パート・アルバイト・派遣でももらえる?
雇用形態そのものは条件ではありません。パート・アルバイト・派遣・契約社員でも、勤務先の健康保険に被保険者本人として加入していれば対象です。
自分が加入しているかどうかは、健康保険証(またはマイナ保険証の資格情報)で確認できます。勤務先の名前が入った健康保険に本人として加入していれば、出産手当金の対象になり得ます。
いくらもらえる?計算方法と月収別早見表
結論として、1日あたりの支給額は「支給開始日以前12ヵ月間の標準報酬月額の平均 ÷ 30 × 2/3」です。標準報酬月額20万円なら日額約4,447円、98日休んだ場合の合計は約43万6,000円が目安です。
計算式と計算例
計算式は次のとおりです。
1日あたりの金額 = 支給開始日以前12ヵ月間の各月の標準報酬月額を平均した額 ÷ 30 × 2/3
「標準報酬月額」は、給与(基本給+通勤手当や残業代などを含む報酬)をもとに等級で区切った金額で、健康保険料の計算に使われているものです。おおまかには「月収に近い金額」と考えて差しつかえありませんが、正確な等級は給与明細の保険料や勤務先への確認で分かります。
計算例(標準報酬月額20万円・98日休業の場合)
- 200,000円 ÷ 30 = 6,666.67円 → 10円未満を四捨五入して 6,670円
- 6,670円 × 2/3 = 4,446.67円 → 1円未満を四捨五入して 日額4,447円
- 4,447円 × 98日 = 435,806円(約43万6,000円)
なお、健康保険への加入期間が12ヵ月に満たない場合は特例があり、「加入期間中の標準報酬月額の平均」と「32万円(支給開始日が2025年4月1日以降の場合)」のいずれか低いほうを使って計算します。転職して間もない方などはこちらが適用されることがあります。
月収別の受取額早見表
標準報酬月額ごとの日額と、98日(産前42日+産後56日)休んだ場合の合計の目安です。端数処理や実際に休んだ日数によって金額は変わるため、あくまで概算として参照してください。
| 標準報酬月額(月収の目安) | 日額(約) | 98日分の合計(約) |
|---|---|---|
| 18万円 | 4,000円 | 39.2万円 |
| 20万円 | 4,447円 | 43.6万円 |
| 22万円 | 4,887円 | 47.9万円 |
| 24万円 | 5,333円 | 52.3万円 |
| 26万円 | 5,780円 | 56.6万円 |
| 28万円 | 6,220円 | 61.0万円 |
| 30万円 | 6,667円 | 65.3万円 |
| 32万円 | 7,113円 | 69.7万円 |
| 34万円 | 7,553円 | 74.0万円 |
| 36万円 | 8,000円 | 78.4万円 |
| 38万円 | 8,447円 | 82.8万円 |
| 41万円 | 9,113円 | 89.3万円 |
| 44万円 | 9,780円 | 95.8万円 |
| 47万円 | 10,447円 | 102.4万円 |
| 50万円 | 11,113円 | 108.9万円 |
出産が予定日より遅れた場合は支給日数が98日より増え、予定日より早まった場合は減ります(数え方は次の章で説明します)。
正確な金額は厚労省「かんたん試算ツール」で
自分の条件での正確な見込み額は、厚生労働省の「産前産後休業・育児休業等期間中の給付 かんたん試算ツール」で計算できます。月収と出産予定日を入力すると、出産手当金だけでなく育児休業給付金や社会保険料免除の効果もまとめて試算できる公式ツールです。
いつからいつまで?いつ振り込まれる?
結論として、支給対象期間は「出産予定日以前42日(多胎妊娠は98日)から、出産の翌日以後56日目まで」です。そして重要なのは、振込は産休が明けてから申請して1〜2ヵ月後になるのが一般的で、産休に入ってすぐお金が入るわけではないという点です。
支給対象期間(予定日より遅れた・早まった場合)
支給対象は、出産のために仕事を休み給与が出なかった日です。起算は出産予定日が基準で、次のように数えます。
- 予定日どおり〜遅れた場合: 産前は「予定日以前42日」で数え、予定日から実際の出産日までの遅れた期間も支給対象に加わります。つまり遅れた分だけ受け取れる日数が増えます
- 予定日より早まった場合: 実際の出産日以前42日で数えるため、産前分の日数は少なくなります
- 産後: 実際の出産日の翌日から56日目までです(出産日当日は産前期間に含まれます)
申請から入金までの目安と「遅い」ときの確認先
出産手当金は、申請書に医師・助産師の証明と勤務先の給与証明をもらってから保険者(協会けんぽや健康保険組合)に提出するため、多くの方は産後56日を過ぎてからの申請になります。そこから審査を経て入金までは、書類に不備がなければ1〜2ヵ月程度が一般的な目安とされています。
つまり、産休開始から数えると、入金までに4〜5ヵ月以上あくケースも珍しくありません。「産休に入ったのに振り込まれない」「遅くて生活が苦しい」と感じる方が多いのは、この構造によるものです。産休前の給与がある月のうちに、産休〜入金までの生活費を確保しておくことが、いちばん確実な備えになります。
振込状況を確認したいときは、申請先の保険者(協会けんぽの都道府県支部、または勤務先の健康保険組合)に問い合わせできます。支給が決定すると支給決定通知書が届くので、通知書が届いているのに入金がない場合も同じ窓口で確認しましょう。
少しでも早く受け取る方法(分割申請と注意点)
出産手当金は、産休の全期間をまとめて1回で申請するほかに、産前分・産後分など期間を区切って複数回に分けて申請することもできます。産前分を先に申請すれば、その分は早く受け取れます。
ただし、注意点もあります。
- 申請のたびに勤務先の証明(給与の支払い状況)が必要になり、会社の手続きが2回以上発生します
- 産前分の申請は、産前期間が終わって出産した後でないと確定できない部分があります
分割申請に対応してもらえるか、まずは勤務先の労務担当に相談してみてください。トータルの受取額は分割でも一括でも変わりません。
申請方法と申請期間
結論として、申請書は「本人」「医師・助産師」「勤務先」の3者が記入して、保険者に提出します。申請の時効は、出産のため仕事を休んだ日ごとに、その翌日から2年です。
申請の4ステップ
- 申請書を入手する — 協会けんぽの場合は「健康保険出産手当金支給申請書」を公式サイトからダウンロードできます。健康保険組合の場合は組合の様式を使います
- 産院で医師・助産師の証明欄を記入してもらう — 入院中に依頼しておくとスムーズです(文書料がかかる場合があります)
- 勤務先に給与の支払い状況などの証明欄を記入してもらう — 産休の期間と給与の支払い実績を会社が証明します
- 保険者に提出し、審査後に指定口座へ入金される
勤務先が申請書の提出までまとめて代行してくれる会社も多いので、産休前に「出産手当金の申請はどちらが提出するか」を労務担当と確認しておきましょう。
申請期間・期限と「いつ申請するか」
申請できるのは、給与が支払われなかったことが確定した期間の分です。まとめて1回で申請する場合は、産後56日を過ぎてから(産休期間の終了後)が申請のタイミングになります。
期限は時効で決まっており、出産のため仕事を休んだ日ごとに、その翌日から2年です。産休期間の初日分から順に時効を迎えていくため、産休が終わったら早めに申請するのが確実です。万一忘れていた場合も、2年以内の日の分は申請できます。
申請書の書き方の概要
申請書には、本人が記入するページ(氏名・振込先口座・出産予定日など)、医師・助産師が証明するページ、勤務先が証明するページがあります。本人記入分で特に間違いやすいのは振込先口座と出産予定日・出産日の記載です。記入方法の詳細は、協会けんぽの申請書ページに記入の手引きが用意されているので、そちらを確認しながら書き進めてください。
あわせて知っておきたい産休中のお金の制度
結論として、出産手当金とセットで「社会保険料の免除」を必ず確認してください。産休中は収入が減る一方で、保険料の負担がなくなることで手取りの目減りを抑えられます。
産休中は社会保険料が免除される
産前産後休業の期間中は、勤務先を通じて申し出ることで、健康保険料・厚生年金保険料が本人負担分・会社負担分ともに免除されます。免除された期間も被保険者資格は継続し、将来の年金額の計算では保険料を納めた期間として扱われます。
手続きは勤務先が年金事務所等に届け出る形で行われるため、本人がやることは多くありませんが、産休に入る前に「社会保険料免除の手続きをしてもらえるか」を労務担当に一言確認しておくと確実です。育児休業中も同様の免除制度があります。
出産手当金が「日額×休んだ日数」で入ってくることに加えて、毎月の社会保険料負担がなくなるため、産休中の実質的な手取りは「給与の3分の2」という字面より目減りが小さくなるケースが多い、というのが全体像です。
産休前に体調不良で休む場合は「傷病手当金」
切迫早産やつわりの悪化などで、産休に入る前から仕事を休まざるを得ないことがあります。この期間は出産手当金の対象外ですが、医師の証明など条件を満たせば、同じ健康保険の「傷病手当金」(給与のおよそ3分の2)の対象になることがあります。
なお、出産手当金の支給期間と傷病手当金の要件が重なった場合は、出産手当金の支給が優先されるルールになっています。産休前の休業が長引きそうな場合は、勤務先の労務担当か保険者に「傷病手当金の対象になるか」を確認してみてください。
退職する場合はもらえる?
結論として、退職しても次の2つを満たせば、退職後の期間分も含めて出産手当金を受け取れます(資格喪失後の継続給付)。
- 退職日までに、健康保険の被保険者期間が継続して1年以上ある
- 退職日(資格喪失日の前日)に、出産手当金を受けられる状態である(産休期間中で、実際に仕事を休んでいる)
とくに注意したいのが退職日の過ごし方です。**退職日に出勤すると、2つ目の条件を満たさなくなり、退職日の翌日以降の分は支給されません。**最終日に挨拶やデスクの片付けで出勤扱いになってしまった、というケースが典型的な失敗例です。退職日を産休期間中に設定し、その日は勤務しないことが条件になります。
退職後の申請は、勤務先を通さず本人が保険者に対して行うことになります。在職中に申請書の勤務先証明欄をどう手配するか、退職前に労務担当と段取りを確認しておきましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 月収20万円だと出産手当金はいくらもらえますか?
標準報酬月額が20万円の場合、1日あたり約4,447円、98日分で約43万6,000円が目安です。実際の金額は標準報酬月額の等級や休んだ日数で変わるため、厚生労働省の試算ツールなどで確認してください。
Q. 出産手当金と出産育児一時金は両方もらえますか?
それぞれの条件を満たせば両方受け取れます。出産育児一時金は分娩費用に対する原則50万円の給付、出産手当金は産休中の収入を補う給付で、目的が異なる別の制度です。
Q. 自営業・フリーランスでももらえますか?
国民健康保険には出産手当金の制度がないため、対象外です。出産育児一時金は国民健康保険からも支給されるほか、国民健康保険料・国民年金保険料には産前産後期間の免除・軽減の仕組みがあります。
Q. 出産が予定日より遅れた場合はどうなりますか?
出産予定日を基準に産前期間を数えるため、予定日より遅れた期間の分も支給対象になります。その分、受け取れる日数は増えます。
Q. 申請してからどのくらいで振り込まれますか?
保険者や書類の状態によりますが、申請から入金まで1〜2ヵ月程度かかるのが一般的な目安とされています。書類に不備があるとさらに時間がかかるため、提出前に記入漏れ・証明漏れがないか確認しましょう。
Q. 公務員も出産手当金をもらえますか?
公務員は共済組合に加入しており、制度のしくみが異なります。産休中に給与(報酬)が支給される場合は、出産手当金にあたる給付が支給されない・調整されることがあるため、加入している共済組合に確認してください。


